
かき氷の「白玉」1750円。氷を片側に寄せた形にすることで、重みのあるソースやあんこを載せても氷の形状が保たれ、食べやすくなった。ダイナミックなこのスタイルも、人気の理由のひとつ。
全国のかき氷愛好家が注目する店の一つ「目白 志むら」。運ばれてくると息を飲む、崖のような姿のかき氷のユニークな形は、斬新さを狙ったわけではなく、おいしさを追求し試行錯誤した果てのものだった。和菓子店の実力と新しいアイデアが調和する、かき氷の魅力を訪ねた。

お菓子の種類がとても多い目白 志むら。九十九餅を手土産に、お茶席に上生菓子、お昼ごはんのお赤飯、毎日お団子を買いに来るなど、さまざまなニーズに応えている。
目白駅の改札を出て、目白通りを左手へ。落ち着いた佇まいの、いかにも和菓子店らしい店が、「目白 志むら」だ。店内に入ると、左手のショーケースには串だんごからお饅頭、季節感あふれる練り切りなどさまざまな種類の和菓子。どれも心惹かれるのだが……。今回目指してきたのはかき氷。早速2・3階の喫茶室に上った。
かき氷の定番メニューは、宇治、宇治金時、白玉、生いちご、あんバター、黒蜜きな粉、あずき、ミルクの8種類。その他に、期間限定メニューもある。
迷った結果、選んだのは白玉。運ばれてくると、かき氷の一面を急斜面にしたところにたっぷりのこしあん、それが流れ落ちたこしあんの海に白玉がたくさん浮いている。なかなか他では見られない、かなり迫力のある姿だ。
あんこの斜面にスプーンを入れると、想像していたよりもなめらかなこしあんと、フワッとした氷だった。口に入れると、両方がそれぞれの速度でとろけていく。あんこはきれいに漉してあって、舌からそのまま喉の方に運ばれていくのだが、小豆の味とコクはしっかりと残り、これこそが和菓子専門店のこしあんだと納得できる。見た目より重量感のあるあんこが、これほど後を引いて次々口に運びたくなってしまうのは、氷の冷たさ、清涼感があるからだ。コシの強い白玉を合間にちゃんと噛んで食べると、またあんと氷がほしくなる。この絶妙のコンビネーションに、まんまとはまっていることが心地よくなってくる。

お話を聞かせてくれた女将の志村友子さん。
この店では、かき氷の提供を戦後間もなくから始めているという。志むらは昭和14年(1939)に青山高樹町(現在の港区南青山)で創業したが、昭和21年(1946)に、駅から近く学習院、川村学園、日本女子大など学校の多い、目白の現在地に移転してきた。和菓子の店舗の隣に甘味処も開き、夏場はそこで宇治金時、白玉といったかき氷も出したのだ。
「以前の木造のお店からやっているかき氷ですが、2000年ぐらいに生のイチゴを使ったシロップをかけてみようとしました。しかし、果肉をたくさん入れたシロップをやわらかいところにかけると、重みで氷がつぶれてしまいました。試行錯誤をする中、スタッフの一人が『斜めにしてみては?』と提案したところうまくいって、斜面にシロップが流れ落ちている形になりました。当時はまだ今のようなかき氷ブームではなかったのですが、見た目の斬新さもあってかき氷を目的に来店してくださる方も増えました」
女将の志村友子さんが、“崖型”のかき氷誕生の経緯を語ってくれた。
それまでは4~10月頃だけだったかき氷だが、通年提供にすることで、春には桜、秋には栗、クリスマス時期にはサンタクロースの練り切りがトッピングされるなど和菓子店らしく季節を表現する期間限定メニューも考案されるようになった。こしあんだけでなく、粒あん、白あん、黒ごまあんなど、それぞれに合ったあんこを合わせられるのも、和菓子店ならではだ。
本物の味、インパクトのある形、それに伝統を生かした季節感、とそろっては、ゴーラー(かき氷愛好家)ならずとも放ってはおけない。甘味処は2フロアあるのに、行列ができてしまう日もあるほどの評判店になっている。喫茶を利用するなら、夏場は特に予約してから行くのがおすすめだ。公式インスタグラムからのネット予約なら、10日前から2日前まで。前日以降は電話で予約できる。
「この形のかき氷がSNSなどで知られるようになると、これまで和菓子屋さんに入ったことがないという若い人も来てくださるようになりました。馴染みのなかったあんこも、こういうものかと知って、帰りがけに1階のお店で和菓子を買っていく方も多いです。かき氷で、お店自体、お客さまの層が広がりましたね」

たっぷりのきなこがうれしい「九十九餅」。単品は360円、煎茶とのセットで1060円。
そう聞いたら、帰りがけ、1階の販売店舗に寄らずにはいられない。
この店の看板商品は、創業者が創作した「九十九餅(つくももち)」だ。
「求肥(ぎゅうひ)のお菓子なのですが、卵が練り込んであって、蜜漬けの虎豆も入っています。それに香ばしいきなこをたっぷりまぶしています」
求肥に卵、というのはどんな効果があるのだろう。イメージできなければ、食べてみるしかない。
まず、噛んだ感じがとてもなめらかなのに、求肥とは思えない弾力。これは、卵の影響なのか、それとも煉りや火入れの加減なのか。そして生地にコクがあるのは、きっと卵の力だろう。中に入っている虎豆がいいアクセントだ。虎豆は、このお菓子を作った先々代の出身地・北海道の胆振(いぶり)地方などに産する豆で、“煮豆の王様”と言われるほど粘りがあって味のいいもの。これを使いたいと、試行錯誤したのだそうだ。
それらすべてを包み込むきなこの香ばしさに、黒文字を動かす手が止まらない。きなこにはお砂糖が入っていないので、求肥の部分の甘味をやわらかく抑えているようだ。志村さんが、「甘いものが苦手な男性も、これなら食べられるとよく買いに来てくださるんですよ」とおっしゃっていたのはこのことだ。
基本的な配合や手順は変えていないが、季節により、温度や湿度により、職人の経験をもとに微調整して味や風味を保っているのだという。

持ち帰り用の九十九餅は、パックや箱入りは2個からの注文で包装してもらえる。写真の10個入り箱は2000円。2個ずつ真空包装になっているものは、1袋(2個入り)400円。これも箱入りにできる。
味は守りつつ、時代に合わせて工夫したのが包装。きなこといっしょにパックされていると、家で食べるならいいが、会合や職場などでは配りづらい。そこで2個入りの真空個包装タイプも開発したことで、通常の包装では3日の日持ちを、5日まで延ばすことができ、遠方への発送も可能になった。
九十九餅だけでなく、店内のショーケースには朝生菓子と呼ばれるものから季節の練り切り、また昔からのお菓子屋さんらしくお赤飯も毎日欠かさず、ご近所に喜ばれているそうだ。
見ているとお客さんが引きも切らず、お馴染みさんらしく迷わず注文して買っていく人も。暮れにはのし餅も搗いていて、毎年ここのお餅でお正月を迎える家も少なくないという。
目白は古くから代々住んでいる人が多い土地柄で、三代続くお客さんもある。一方、かつては茶道の先生も多く和菓子文化が深く根付いていたが、時代とともに減ってきたり、高齢化による代替わりが進んでいたりも。
そこへ新たな風を吹き込んだのが、ほかでもないかき氷だった。繁華街のある駅と違って、目白は「ついでに」来るところではないのに、若い人や地方から、また海外からもこの店のかき氷を目指して来店するようになったのだ。
和菓子の伝統や店の味を頑なに守りながら、その時代のニーズに合わせてもいく。その絶妙な調和が、目白の街で世代を超えて愛され続ける理由なのだろう。

目白通りに面した和菓子店。2・3階が甘味喫茶になっている。喫茶にはかき氷の他、あんみつや和菓子とお茶のセットなど。また赤飯弁当1450円などの食事メニューもある。
昭和14年(1939)青山高樹町で創業、昭和21年(1946)に現在の目白に移転。JR山手線目白駅から徒歩2分。製造が8人、販売と喫茶の担当が28人。店頭の決済は、現金の他クレジットカード、電子マネー、コード決済など。ECサイトで九十九餅の他、棹物や焼き菓子を販売。
<データ>
住所 東京都豊島区目白3-13-3
電話 03-3953-3388
営業時間 和菓子販売9:00~18:00、喫茶9:30~18:00(ラストオーダー17:30)
定休日 日曜、他に月2回程度不定休
URLhttps://www.instagram.com/shimura_kissa
※掲載したお店や施設の臨時休業および年末年始・ゴールデンウイーク・お盆休みは営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。
※2026年6月16日時点での情報です。
※料金は原則的に税込み金額表示です。
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