性的少数者への理解を促す「LGBT理解増進法」に基づき、政府に策定が義務付けられている基本計画が16日、閣議決定された。取り組むべき施策の一つには教職員への知識の普及啓発も掲げられた。多様な性について教職員向け研修などに取り組んできた学校現場からは、基本計画の策定で「先生たちが学ぶ機会が充実してほしい」と期待の声が上がる。(奥野斐)
「7割の先生が、一度もLGBT研修に参加したことがなかった。知識があいまいなままでは、困っている子がいても対応できないし、そもそも気付かない」
東京都江東区立第三砂町小学校の浅野努校長は、2024年度に地区の小学校長会として実施したアンケート結果をこう解説した。
アンケートは12校の教員を対象とし、回答した262人中、72.9%の教員は一度も研修を受けたことがなかった。当時、同区や都の教育委員会主催の教員向け研修はほとんど実施されていなかった。

校内には性の多様性についての掲示も=東京都江東区の第三砂町小学校で
86%がLGBTについて、授業や学校便りなどで「取り上げる機会がない」と回答。各校の図書室にある関連図書は0冊から15冊と、ばらつきが大きかった。
認定NPO法人「ReBit(リビット)」が昨年実施したインターネット調査では、回答した当事者の中高生1077人のうち、89.5%が過去1年に学校で困難やハラスメントを経験。63.8%は教職員の言動が要因だった。「担任の先生に安心して相談できない」との回答は94.6%に上った。
浅野校長は昨年度、同法人の講師を招いて教職員研修を開催。他校の教員を含む約60人が受け「知らないことが多かった」「今後、人権教育に取り組みたい」などの感想が寄せられた。
12校はそれぞれ、校内に啓発ポスターを貼ったり、校長が全校集会で話したりといった取り組みを実践している。
第三砂町小では、児童を「さん」で呼ぶことに。「お父さん」「お母さん」は「保護者」と包摂的な呼称にしたり、教職員の名札も姓のみにしたりして、不要な男女分けをなくした。性に悩む児童が手に取りやすいよう、多様な性やジェンダー関連の本を並べた図書室の「にじいろ本だな」も充実させた。

性の多様性に関する図書が並ぶ「にじいろ本だな」について話す浅野努校長=東京都江東区の第三砂町小学校で
浅野校長は、トランスジェンダー当事者が小学校入学時に靴箱が男女で青と赤に色分けされていたことで学校が嫌になった、との話を聞いたことがある。
「教職員の対応や校内を見直すことが重要だ」と強調し、「年度当初の研修や、図書、教材の充実は必要。基本計画ができて、子どもと関わる大人に向けた知識の普及の後押しになれば」と期待した。
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基本計画には、理解増進に不可欠な教育の充実につながる教職員への知識の普及啓発などが盛り込まれたが、当事者団体の全国組織「LGBT法連合会」は16日、声明を発表し、「実効性ある施策が十分に示されているとは言い難く、懸念が拭えない」と指摘した。

LGBTを象徴するレインボーフラッグ(資料写真)
計画決定の過程では、教育や啓発の必要性を弱めているとも取れる文言修正があった。原案では多様性を巡る現状について「国民の理解が十分に進んでいない」となっていたが、「認識は広がりつつある」と修正された。支援団体の関係者は「理解を広げる教育はもう必要ないと言いたいのだろう」と推し量り、保守系議員への配慮とみている。
ただ、計画決定により、自治体の取り組みが進むことは期待され、性的少数者の子どもや若者を支援する一般社団法人「にじーず」の遠藤まめた代表は「地域によって研修の実施などにばらつきがある。地方で孤立する当事者が救われるように自治体は取り組んで」と求めた。
多様性に関する施策に力を入れている東京都国立市の担当者も「行政担当者にとっては、最低限やるべきことが明確になり、施策を進めやすくなるのでは」と話した。
