永代橋でビャンビャンメン 『西安麺荘 秦唐記(永代総本店)』|ぐるり東京

生物学 Sep 18, 2026 IDOPRESS

イラスト:なかむらるみ

ピリッと、モチっと、本場の味! ビャンビャンメンをすする

隅田川に架かる永代橋を渡って「西安麺荘 秦唐記(永代総本店)」へ。橋からお店までは徒歩すぐ。

芽場町の4b出口から出ると、すぐ先に亀島川に架かる霊岸橋というのがある。橋を渡った新川の町の一帯は当初は霊岸島といわれ、昭和30年代頃まで少し南方に霊岸島の町名が残っていたが、「霊」の字面が不動産イメージ的に嫌われたのか、新川に統一されてしまった。もっとも、新川というのも昭和初めに埋め立てられた狭い運河に由来するもので、船運時代、酒問屋が並んでいた……それなりの歴史を持つ。

そちらの方にも行こうか……と思ったのだが、取材当日は大した雨模様なので、永代通りと並行する日本橋川際の裏通りを歩いて、クラシックな昭和鉄橋の姿を留めた豊海橋だけ眺めて目的地へ向かうことにした。


日本橋川が隅田川に注ぐ手前に架けられた豊海橋は関東大震災後の昭和2年に竣工したもので、ハシゴを寝かせたような形状をしている。雨宿りをしようと、橋際に見つけたカフェらしき店に入った。

「VINOMONDO」と屋号の出たこの店、階段を上った2階のカフェスペースは隅田川に臨む窓があって、永代橋と東岸の佐賀の町がよく見える。


ちょうど対岸に訪ねようとしている中国料理店の漢字の看板が確認できたが、隅田川が雨で霞んでいることもあって、上海の外灘(バンド)あたりの景色を思わせた。橋を渡って左の横道に入ったところに店はある。この辺の江東区佐賀の界隈は、80年代から90年代にかけてアートスペースに使われていた食糧ビル(佐賀町エキジビットスペース)をはじめ、倉庫業のクラシックビルが散在していた地域だが、この数年で消滅してしまった。


看板商品の「ヨウポー麺」(1180円)。辛さは3段階から選べる。


訪問した「西安麺荘 秦唐記」は、歩いてきた中央区新川に本店名義の店があり、こちらは“永代総本店”と表記されているが、最近コアなファンが付くようになった「ビャンビャンメン」を看板にした店で、さっき隅田川の西岸側から眺めた店の外壁に記された文字もビャンを表わす超難解な漢字だ。ここのフォントにはないので、なかむら画伯の書き文字を参照してほしいのだが、シンニョウの上に月、馬、長、言、心……などをごっちゃっと乗っけてウ冠が被さっている。

57画(56、58画という説もある)に及ぶという中国オンリーのこの漢字、小麦粉をたたいて平打ちの麺を作るときに出る音(ビャン)を表わす擬音語だというが、月や馬が登場する古代中国の伝説なども含まれているのかもしれない。

人気メニューの「ジャージャン麺(写真左)」と「トマト麺(写真右)」(各1080円)。

「ウチはこの字の登録商標を取っているんですよ」


と、オーナー(代表取締役)の小川克実さんが説明をする。小川は日本名で、本名は牟(ムー)さんという青島(チンタオ)の生まれ育ち(ビャンビャンメンの発祥・西安出身ではない)の人なのだが、中国旅行で付いた頭のキレる現地ガイドのように早口で流暢な日本語を話す。

「ビャンビャンメンというのはメンを表わす言葉で、メニューとしては、ヨウポーメン、ジャージャーメン、トマトメンの3つが西安でもよく食べられている味つけなんですよ」

現地ではストリートフードとして人気の「ロウジャーモー」(780円)。

とくにポピュラーなヨウポー(油溌)メンは、その漢字のごとく、現地ではメンを油と唐辛子で和えて酢をたらしただけのシンプルなもので、唐辛子で赤く染まった、いかにも辛そうなメンの写真が壁に掲げられているけれど、この店では日本人向けにチャーシューや焼ネギを混ぜこんでアレンジされている。もっちりとした平打ちメンと油、ピリッとした唐辛子、チャーシュー……などをこね回すようにして口に運ぶ食感は格別だ。


日本のそば屋の“そば湯”のように、仄かな塩味のメンのゆで汁が付き、メン以外のものとしてもう1つ、ロウジャーモーというのをもらった。これは、中国というより中近東っぽいパンの間に豚肉のパテを挟んだハンバーガー。西安の街頭でポピュラーなファストフードで、小川オーナー、当初はビャンビャンメンよりも、この西安ハンバーガーの専門店をやりたかったらしい。

店のオリジナル食器の販売などオンラインで手掛けているようだが、もちろん、商標登録したビャンの漢字を背中に入れたナイスなTシャツもある。


◆◆◆

今回訪れたお店

西安麺荘 秦唐記(永代総本店)

住所東京都江東区佐賀1-1-16 1F


電話03-5875-9685


営業時間11:00~15:00、17:00~23:00


定休日無休


※掲載したお店や施設の臨時休業および年末年始・ゴールデンウイーク・お盆休みは営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。


※2026年9月4日時点での情報です。


※料金は原則的に税込み金額表示です。


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PROFILE

泉麻人コラムニスト

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『「冗談画報」という楽しい番組があった』(三賢社) 『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。


なかむらるみイラストレーター

1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に、月刊たくさんのふしぎ『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。泉さんの本では『東京ふつうの喫茶店』『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京 のらりくらりバス遊覧』『続・大東京 のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などでイラストを担当している。


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